風は冷たいけれどよく晴れた日、同志社大学の今出川キャンパスで。
御所の今出川御門向かいの正門から入って歩いていると満開になった白梅の木が目に入りました。
誘われるように木の下にきて見上げると、通路をはさんで向かい側に「クラーク記念館」がそびえるように建っています。
いつもは学生たちで賑やかなキャンパスも今は春休みの時期だからでしょうか、ほとんど人気がなく、青空をバックに建つレンガ造の建物は1枚の絵のよう。
空に向かって延びる尖塔も胸のすくような気持ち良さです。
クラーク記念館は神学館としてチャペルをもち同志社今出川キャンパスのシンボル的な建物。
(新島襄永眠後、卒業生らが神学館建設に奔走していたところ、アメリカのクラーク
夫妻が早世した息子のメモリアルのために寄付したもの。1894年。重要文化財)
飽かずにしばらく眺めてまた歩き出し…
よく見るとここにもあそこにも、とあちこちに梅が咲いています。
紅梅も白梅もとりまぜて。
「ハリス理化学館」の横には白梅。清々しい白です。向こう側に見えるのは相国寺の屋根。風があるのでいい香りがしてきます。
今年初めての梅の香にうれしくなりました。
この建物の前は紅梅が植えられていました。ハリス理化学館は二階が記念ギャラリーになっていますので、昨年見学された方もおられるかもしれません。
清遊の会でも昨年六月に京都講座の一環で、相国寺とこの今出川校内をご案内しましたが、そのときは梅の木がこんなにあるとは気づきませんでした。
咲いてこそ気づくというもの、ですね(笑)
NHK大河ドラマは「八重の桜」のタイトルで、八重さんは桜にもたとえられましたが、同志社の創立者で夫の新島襄はじつは梅をたいへん好んだのだそうです。
新島襄は「寒梅」によせて漢詩二篇を残しています。
庭上一寒梅 笑侵風雪開
不争又不力 自占百花魁
庭上(ていじょう)の一寒梅(いちかんばい)
風雪を侵して開き笑(咲)く
争はずまた力(つと)めず
自ずから占(し)む百花の魁(さきがけ)
一番咲きを競ったのでなく、自らの力で咲いて、百花のさきがけとなった寒梅。春の陽気に誘われて咲く桜ではなく、厳しい寒さに耐えて咲こうとする梅。
そんな梅を称えて、含蓄の深い詩。
もう一篇、
真理似寒梅 敢侵風雪開
真理は寒梅に似り
敢えて風雪を侵して開く
開拓者としての道は険しい道。新島襄は寒梅のように生きたいと願い、まさにそう生きた人でした。そして妻の八重もまた襄に寄り添い、夫亡き後もその精神を受け継いだ生涯を送りました。
礼拝堂の前には紅梅と白梅が左右に植えられています。
いま仲良く咲きそろう満開の梅。
この紅梅と白梅。襄と八重にたとえておきましょう。(笑)
隣の紅梅とも調和して、馥郁たる香が匂っていました。
礼拝堂はプロテスタントのチャペルとして日本に現存する最古の建物です。
(正面に円形のバラ窓、左右にアーチ窓、その前に屋
根と尖りアーチの入口を持つ。1886年。重要文化財)
礼拝堂の西には彰栄館が建っています。京都では最古のレンガ造建築です。
(礼拝堂とともにアメリカン・ゴシック建築。内部は
純和風。1884年。重要文化財)
横に回ってみると塔屋がよく見えます。
この塔屋は鐘塔と時計塔を兼ねています。風格をそなえた美しさですね。惚れ惚れします。
ここにも梅が咲いていました。お気に入りの1枚、ごらんください。
さて、せっかくここまで来ましたので、新しくできた「良心館」を覗いてみましょう。
立派な建物ですね!
良心館は烏丸通に面し、地下鉄今出川駅の連絡口もあります。
向かいは尼門跡の大聖寺、その隣はやはり同志社大学の「寒梅館」(写真下)があります。
良心館は地階につづく大きな階段があり、降りると吹き抜けのテラスになっています。
1階は広―い廊下を進むと、これまた広々したカフェテリアがあります。
廊下には、有難いことに案内板が設けられ、工事中に出土した相国寺の遺物が展示してあります。
床にも仏堂の基礎に使われた石などが見えるようにディスプレイされています。
また歴史遺産シアターとしてパネルが設置され、この地の歴史や出土品の解説が行われています。
相国寺や花の御所など、いずれ、清遊先生にぜひとも講義をしていただきたいですね!
ここ1階のフロアは一般の人も入れて、廊下を歩きながら歴史の一端に触れることができますので、御所や相国寺など近辺に来られる折に立ち寄ると面白いかもしれません。
そうそう、先生は四月から母校同志社大学で講義を持たれるのだそうです。
フラッと立ち寄られたキャンパスで、もしも…先生を見かけたらお声掛けください!(笑)
キャンパスの風格ある赤レンガの建物と清楚に咲く梅は、冬枯れの景色に疲れた目にまぶしく映りました。
ひとつひとつの建物は同志社英学校として出発して以来の歴史を繋いできた証し。
そして、同じ場所でも季節が移れば景色も変わるように、校内の梅の木にも初めて気づかされました。
いよいよ春。待ち望んだ季節ですね。心動かされる風景に、また出会えますように─。